piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

マイケルD.レモニック「ビッグバン宇宙からのこだま」

日本評論社 、2006年。
3K宇宙背景放射観測衛星、WMAPの開発物語です。

1964年にペンジァスとウィルソンによって発見された3K宇宙背景放射は、ビッグバン宇宙論を支持する証拠としてのみならず、宇宙論のいくつものモデルを検証するための貴重な情報を与えてくれます。例えばこの3K背景放射のゆらぎを調べることによって、宇宙の大規模構造がどうしてできたのか、宇宙の誕生直後にインフレーションと呼ばれる爆発的な膨張が起こったのかどうかなどがわかります。WMAPはこの宇宙背景放射を精密に測定するために打ち上げられた観測衛星で、90年代に画期的な観測結果をもたらしたCOBE衛星よりも20倍の精度を武器に、宇宙論を精密科学に仕立てた立役者といえます。

WMAPによって解明された宇宙の謎は、次のようなことです。

  • 宇宙は平坦である
  • 宇宙の年齢は約137億年
  • 宇宙のエネルギーのうち、4%が物質で23%がダークマター、73%がダークエネルギーである
  • インフレーション宇宙は正しかった

(竹内薫「よくわかる最新宇宙論の基本と仕組み」より)

WMAPの計画が持ち上がったのは1993年頃で、1989年に打ち上げられたCOBE衛星が背景放射の結果を報告したすぐ後。この成果によって、COBEの主要なスタッフであったメイザーとスムートは、2006年のノーベル賞を受賞しました。訳者あとがきにあるように、この本にはスムートの等身大の人間像が描かれています。COBEは計画から打ち上げまで10年以上を要しましたが、WMAPは2001年6月30日に打ち上げられました。当初はMAP(Microwave Anisotropy Probe)と呼ばれていましたが、この開発に主導的役割を果たし、打ち上げ後の2002年に亡くなったウィルキンソン教授を記念して、その名を冠して呼ばれることになりました。

この本では、宇宙のなりたちを解明してきた宇宙論の発展を通奏低音として、WMAPの開発に参加した人々のドラマを描いています。チームの編成から衛星のデザインと開発、打ち上げに漕ぎ着け、そして観測結果に意味が与えられるまでの、多くの人々が成し遂げたことが詳しく語られます。WMAPの観測精度を達成するための様々な仕掛け、ひとつの衛星がNASAのプロジェクトとして採択され、実際に打ち上げられるまでの込み入った経緯などが分かって興味深く読みました。専門用語などに関する訳注が親切なおかげで、読みやすい構成になっています。