piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

近衛龍春「前田慶次郎」

副題「天下無双の傾奇者」、PHP文庫、2007年。
隆慶一郎一夢庵風流記」や漫画の「花の慶次」で知られる戦国時代末期の快男児前田慶次郎を描いた歴史小説。傾奇者とは、異様な風体や行動を好みつつも、己の信念にかけては命を懸けてを貫きとおす、そんな生き様を表します。「一夢庵風流記」や「花の慶次」に比べると、幾分史料に忠実な方向にシフトした立ち位置のようで、残された記録を骨格にして、小説的な臨場感を付け加えっていったような感じの構成です。

花の慶次」では若く描かれているけど、実際は前田利家よりも年上だったらしい。少なくともこの本はその視点に立っています。活躍するのは、人生五十年の当時としては、老境に差し掛かってからと言ってもよいくらいの年齢となります。織田家滝川一益の配下として関東攻めに加わり、信長の死に際して撤退戦を演じるあたりから、秀吉の小田原城攻めまでが詳しい。その代り、前田家を出奔してからの事跡は駆け足気味です。しかし傾奇者として、また無類の戦好きとしての特質を鮮やかに描いて、痛快な読み物となっています。