piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

研究生活の心得

これも、古い本をひっぱり出して思い出したネタです。
大学生の頃に読んだ、「数学学習案内」の中の、本田欣哉氏の「数学の学び方」という記事。この中の、研究生活へのアドヴァイスと称した節の中で、氏の説く心得が印象的でした。曰く、

まず、全体的な構想として、あなたはぜひ、100歳まで生きてやろうと決心すべきです。ふつうの人なら、しかるべき努力をすれば、100歳までいきられるはずです。そして100歳まで生きますと、あなたの研究時間は、じつにタップリできます。したがって、あなたの仕事は入念なものになり、また、心の平静さが得られます。

どうでしょう。この泰然自若とした態度こそ、じっくり腰を据えた研究に必要なものかも知れません。科学者の旬は若いうちだから、今のうちに大勝負がしたい、なんてことを考えて焦っていた、自分の不明を恥じるばかりです。

この生き方を地で行った数学者が、先日100歳で亡くなられた、弥永昌吉氏。100歳になった今年4月に論文が掲載されるなど、最後まで現役として活躍された方です。
参考:

そう、研究者は長生きすべきなのです。死んでしまえば、積み上げた知識も経験も、一瞬のうちに無に還るのです。私も今からでも摂生すれば、80歳くらいまではいけるかも知れない。そう考えれば、人生まだ半分も来てないさ。

この記事には他にも、講義の聴き方から、粗食の勧め、見合い結婚の勧めまで、いろいろなアドバイスが載っているのですが、もう一つだけ紹介します。それは本の読み方について。目的に応じて、4つの読み方が紹介されているのですが、そのうち第4の、最も徹底的な読み方が「書き直し法」です。書き込みをするくらいでは不十分で、その本を「あなたの手で、はじめからおわりまで、全部書き直すのです」。つまり、自分の言葉で完全に理解して構成しなおす、ということ。何度かチャレンジしたことはあるのですが、最後まで完全に理解した本があるのかというと、ちょっと心許ない。結局、究極の理解の仕方というのは、自分で本を書くところまで行くしかない、ということなんですね。道まだ通し。


この本には、他にも数学の種々の分野へのイントロダクションや、勉強の仕方に関する含蓄に富んだ記事が詰め込まれていて、当時夢中で読んだ記憶があります。数学を専攻していなくても、参考になることは非常に多い。雑誌(数学セミナー)の増刊とはいえ、絶版なのが本当に残念。