やっと後編。無駄に長いです。
- コンピュータシミュレーションから見る宇宙 (吉田直紀)
80年代以来、銀河サーベイ観測によって宇宙の大規模構造が解かってきました。背景放射の観測から、宇宙誕生38万年後の物質分布のゆらぎ(0.001%程度)がわかりますが、これによって大規模構造は説明できるのでしょうか。重力のN体シミュレーションは、この大規模構造形成が再現できることを示しました。計算規模は2003年現在、10億個の質量粒子が最大のものだそうです。大規模構造の再現性から、ダークマター候補も制限されます。熱いダークマターであるニュートリノはほぼ否定、現在は冷たいダークマターが注目されています。また、近傍宇宙(100Mパーセクくらいまで)の構造形成シミュレーションも行われています。これは、IRAS銀河サーベイで得られた物質分布から、宇宙初期の物質分布を再現し、それを初期条件として発展させます。天の川銀河を取り巻く環境が、将来どのように進化するかを推定することもできます。
- 超新星で測る宇宙膨張とダークエネルギー (土居守)
宇宙がどのように膨張して来たかを知るためには、遠方の天体までの距離を測る必要がありますが、これにはIa型超新星が利用されます。これは、連星系の片方が白色矮星の場合、もうひとつの星からのガスが降着してゆき、電子の縮退圧で支えられる限界を超えた際の核爆発として説明されます。この際のチャンドラセカールの限界質量(太陽質量の約1.4倍)は星間空間の環境に依存しないため、明るさ(絶対等級)がほぼ一定となり、見掛けの明るさとの違いから距離の推定ができます。これを使った宇宙膨張測定には、日本の「すばる望遠鏡」などの感度のよい望遠鏡が必要です。また超新星発見後にその変化を辿って、Ia超新星であることと、明るさの見積りをするために、世界中の望遠鏡による協力体制が不可欠です。これまでの結果は、宇宙膨張が現在加速していることを示し、ダークエネルギー(宇宙項)の存在を支持しています。
- ニュートリノと素粒子物理 (梶田隆章)
弱い相互作用しかしない素粒子、ニュートリノは、その性質、特に質量を調べることによって、現在の標準理論を超えた基本的な理論を探す突破口になる可能性を持っています。この章では、カミオカンデ、スーパーカミオカンデ実験を中心に、ニュートリノの質量の謎に迫る実験を紹介しています。大気中で生成される、電子ニュートリノとミューオンニュートリノの比を調べることによって、ニュートリノ振動の存在が確認されました(1998年)。ニュートリノ振動は、ニュートリノが飛んでいる間に別の種類のニュートリノに変わる現象で、ニュートリノが質量を持つことを意味しています。このニュートリノ振動によって、これまで謎とされてきた太陽ニュートリノ問題、すなわち太陽から飛来するニュートリノの量が理論と合わないという現象も説明できます。この問題は、60年代後半からのホームステイクの実験や、カミオカンデ実験などで示され、スーパーカミオカンデとSNO(カナダ)による精密測定でやはりニュートリノ振動が原因であることがわかりました(2001年)。原子力発電所で生成されたニュートリノを観測するカムランド実験も結果が出ています。またKEKで作ったニュートリノビームをスーパーカミオカンデで測定する実験も(2003年現在)進行中です。
- 超新星ニュートリノで見る宇宙 (佐藤勝彦)
1987年2月、超新星1987Aによって放出されたニュートリノが、カミオカンデによって観測されました。これによって新しい観測方法としてのニュートリノ天文学が始まったと言え、その業績によってカミオカンデ実験を主導してきた小柴昌俊氏に2002年度のノーベル賞が授与されました。この章は、その観測データの意味するところをリアルタイムで解析した立場から見た、1987Aとそれが明らかにした超新星の姿のドキュメントです。超新星からのニュートリノ放出のメカニズムについて計算すると、およそ10秒間にわたるニュートリノバーストが予測されます。これに加えて、ニュートリノの平均エネルギー、超新星からの全放出エネルギーなど、実際の観測データとよく一致しています。これによって超新星爆発の理論が観測的に実証されたことになります。その他にも宇宙背景ニュートリノの観測などによる、宇宙論の新しい地平が拓かれつつあります。
- 究極の宇宙論:太陽系外惑星探査 (須藤靖)
太陽系の外に、第2の地球はあるのか?この問いに答えるには、太陽系外惑星を観測しなければなりません。しかし、側にある100億倍程度明るい恒星から、惑星を分離して直接観測するのは、今の技術では不可能です。そのため間接的な方法として、主星の公転による視線方向の速度変動によるドップラー効果、惑星が主星の前を横切る食の際の光度変動などによって、惑星の存在が確かめられてきました。初めて太陽系外に惑星の存在が発見されたのは1992年で、パルサー系でした。主系列星では1995年に発見され、それ以来2003年12月現在で104の太陽系外惑星系が確認されています。木星と同程度の質量の惑星がわずか4日程度で公転する例もあり、このような短周期の惑星もめずらしくありません。食の観測のために、望遠鏡によるサーベイ、衛星(ケプラー)による観測などが予定されています。また直接検出でも全光度の増加を検出できるかも知れず、すばる望遠鏡による観測が進行中です。そしていつか、地球型惑星、更には居住可能な惑星が発見される日が来るかも知れません。