piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

「杉浦日向子の食・道・楽」

新潮社, 2006年。

昨年7月に惜しまれつつ亡くなられた現代の江戸人こと、杉浦日向子さんの、「最後のエッセイ」。食べ物とお酒に関するエッセイ集です。まず初めのあたりにある、この七箇条からして気に入りました。

正しい酒の呑み方七箇条

一、酒の神様に感謝しつつ呑む
二、今日も酒が呑めることに感謝しつつ呑む
三、酒がうまいと思える自分に感謝しつつ呑む
四、理屈をこねず臨機応変に呑む
五、呑みたい気分に内臓がついて来られなくなったときは、便所の神様に一礼して、謹んで軽く吐いてから、また呑む
六、呑みたい気分に身体がついて来られなくなったときは、ちょっと横になって、寝ながら呑む
七、明日もあるからではなく、今日という一日を満々と満たすべく、だらだらではなく、ていねいに、しっかり、十分に、呑む
以上。

後半がちょっと言い訳がましいところが、また酒飲みらしくてご愛嬌。どこかに貼っとこうかな。

こんな杉浦さんの、酒と食べ物にまつわる思いを散りばめたエッセイです。お気に入りの酒器も写真入りで披露されています。江戸の話はほとんど出てきませんが、漂う雰囲気は他の著作と共通するものがあって、言の葉のそこかしこに、古雅を感じます。句点の打ち方が不思議。装丁も華やかすぎず軽すぎず、趣があって良い感じです。

歳を取ることに抵抗せずに、美しく齢を重ねていこうというスタンスは見習わなくては。私はまだ、じたばたしてしまいます。「四十からがおもしろし」なんでしょうか。

最後に、とても気に入ったセンテンスを。

呑まなければ、もっと仕事ができるし、お金もたまる。たぶんそうなんだろう。ベッドにもたれ、ゆるり、適量を満たしながら、なんてことのない一日に、感謝して、ほほ笑んでいる。間に合わなかった仕事、ごめんなさい、おいしいお酒、ありがとう。今日も、ちゃんと酔えて、よかった。あした間に合うね、きっと。

あした間に合うね、きっと。