昨日、9月30日は「くるみの日」だったので、「胡桃の中の世界」を読み直してみました。澁澤龍彦と言えば、私はこの作品が真っ先に頭に浮かびます。古今の文物を渉猟しながら、寄せてはかえすイメージの波と戯れるこのエッセーが、一番のお気に入りです。
特に好きなのが、「プラトン立体」。プラトン立体とは正多面体のことで、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の五種類に限られます。プラトンの宇宙観やケプラーの神学的宇宙論にこのプラトン立体が果たした役割、分子生物学者のモノーによる自然物と人工物の基準などを引き合いに出しつつ語られる、この美しいシンメトリーが紡ぎ出すイメージへの耽溺に、引き込まれるのも一興でしょう。
プラトン立体の一つ、正二十面体を象った日時計が、エディンバラの宮殿の中庭にあるとのこと。その宮殿に二度も足を運びながら、それに気づかなかった自分の不明を恥ずばかりです。それにつけても対称性とは、人の心を惹きつけて止みません。
「胡桃の中の世界」目次:
- 石の夢
- プラトン立体
- 螺旋について
- 『ポリフィルス狂恋夢』
- 幾何学とエロス
- 宇宙卵について
- 動物誌への愛
- 紋章について
- ギリシアの独楽
- 怪物について
- ユートピアとしての時計
- 東西庭園譚
- 胡桃の中の世界