piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

素粒子の世界を拓く --湯川秀樹・朝永振一郎の人と時代

湯川・朝永生誕百年企画展委員会編集、佐藤文隆監修 (京都大学学術出版会, 2006)。

二人のノーベル賞物理学者、湯川秀樹(1907.1.23-1981)と朝永振一郎(1906.3.31-1979)が生まれてから、ちょど100年になります。これを記念して様々な催しが行われていますが、その一環として編集された、二人の人と業績、その生きた時代の一般向けの解説です。

湯川秀樹は、中間子の存在を予言した業績により1949年にノーベル物理学賞を受賞し、終戦直後の意気消沈した日本人に誇りと希望を与えました。その後はノーベル賞受賞を記念して創設された、京都大学基礎物理学研究所の初代所長として日本の理論物理を先導。素粒子理論を根本から構成しなおすべく、「マルの理論」を唱え、後には素領域理論のようなユニークな理論を世に問いました。またラッセル-アインシュタイン宣言に共同署名し、パグウォッシュ会議に出席するなど、核兵器と戦争の廃絶に尽くしました。

朝永振一郎は、場の量子論相対性理論との整合性を「超多時間理論」として解決し、場の理論に現れる無限大を処理する「くりこみ理論」を開発しました。これを応用してラム・シフトや電子の磁気能率を鮮やかに説明してみせ、1965年に、ファインマン、シュウィンガーと共にノーベル賞を受賞。後には東京教育大学(筑波大学の前身)学長や日本学術会議会長として、科学行政の面でも戦後の科学の復興に大きく貢献しました。

共に学者の子息として京都に生まれ、世界的な業績をあげただけでなく、文化的素養を背景とした多くの著作を残し、社会的にも科学者の立場から多くの貢献を行いました。この本では、20世紀初頭の量子力学の勃興から説き起こし、長岡半太郎仁科芳雄などの先覚者を経て、日本における量子力学の受容、湯川、朝永らによる開花、最近のニュートリノ物理などへ至る、日本の素粒子原子核物理学の発展史を俯瞰します。

興味深く感じたのは、以下のような箇所。

しかし、彼らの場合の最大の特徴は、理論と規範の両面で、伝統の開花というよりは欧米の科学や科学者の理念として目指された規範が、日本においても開花したという方が妥当であるように思われる。これをより一般化して言えば、彼らが育った時代は日本の教育や文化の中で近代の理想主義の理念が謳歌された時代であり、その最良の果実の一つであったと見るほうが的を得ていると思う。

21世紀の初頭に際し、20世紀の科学に生きた偉大な先達の足跡を辿り、その意味を考え直してみるために、きっかけとして手頃な一冊です。