piyopiyo diary

幸せまで五十歩百歩。

杉浦日向子とソ連「もっとソバ屋で憩う」

新潮文庫、1999年の「ソバ屋で憩う」のリニューアル版、2002年。
西の方で育ったので本来はうどん文化圏に属する私ですが、最近めっきりソバ好きになりました。最大の理由は、酒との相性が良いことだったりするのですが。関東に来て、初めは汁そば、次にもりそばが気に入り、今では週に数度は食べないと何か物足りません。

ソ連」とは、「ソバ好き連」の略。「連」というのは、江戸の街に咲き乱れた、同好の士に寄って構成された市民サークルで、職業身分年齢性別のすべてをこえて成り立つものだそうです。杉浦さんのもとに集った会員は、正式メンバー15人内外、全国には「ソバッチ」を持つバッチ会員百名ほど。会則は年間ソバ百食だそうですが、「数を自慢するより、愛の深さの質を問いたいと願っている」とのこと。冒頭いきなり次のような口上。

グルメ本ではありません。おとなの憩いを提案する本です。
ソバ好きの、ちょいとばかし生意気なこどもは、いますぐ、この本を閉じなさい。十年早い世界ってものがあるのですよ。
腹ぺこの青春諸君も、もう、この先を読まなくていいです。諸君の胃袋を歓喜させつ食べ物は、ほかにゴマンとあるはずです。
デートや接待に、使える蘊蓄はないかと、データ収集のつもりの上昇志向のあなた。この本は期待に添えません。さようなら。
さて残った皆様。(以下略) そんな皆様のための本です。

ほっと安らぐ空間。そんな場所としてのソバ屋はいかがでしょう、と。 123店にのぼる、選び抜かれたソバ屋が紹介されていますが、名店案内というよりも、ソバ屋の楽しみ方のケーススタディと言った方が適切でしょうか。描写が実に美味しそうで、ソバとソバ屋、そしてそこで過ごす時間に対する愛情に満ちています。ソバの嗜み方の基本から楽しみ方の考察、豆知識まで扱った、杉浦節全開のコラムも楽しい。

「多くを知るより、深くを知れ。」 ソバ屋に限らず、人生も半ばなら、楽しみは貪らず、余韻に浸るべし。